わかるともっとおもしろい!美術のミカタ「東広島市立美術館」「橋口五葉」「木村芳郎」
2021.08.31

みたことある!知っている!
…つもりになっている有名絵画。
視点を変えると知らなかった
面白さがまだまだみつかる!
美術家で広島女学院大学教授の三桝先生が
有名美術作品の新たなミカタをご紹介します。
今回は2020年11月に移転オープンを果たした
「東広島市立美術館」。
個性的なコレクションから、
内外観のデザインにもフォーカス。
訪れればきっと刺激的な体験が
待っていることをお約束します。
1979年6月1日に八本松の七つ池池畔に人間と自然の調和のとれた文化の薫り高い芸術文化の拠点として開館した「東広島市立美術館」。
そんな「東広島市立美術館」がついに動きます。2020年11月、東広島市の中心部、酒蔵地区や東広島芸術文化ホール「くらら」などがある、西条の文化ゾーンへの移転とともに全館デザインを一新した「新美術館」としてオープンしたのです。
新しくなった「東広島市立美術館」は、市民の暮らしとともにある芸術文化に出会う接点となり、人・まちを育み、やがて東広島市独自の文化を醸成し、地域と世界へ繋がる文化・芸術の交流拠点(プラットフォーム)としての美術館になることを目指しています。
東広島市立美術館 外観
鑑賞ポイント その1 個性的な |
「東広島市立美術館」には、「近現代版画」「現代陶芸」「郷土ゆかり」をテーマとした、約1,000点を超える美術作品がコレクションされています。特に「近現代版画」の分野は、その質、量ともに、西日本エリアで最も充実していると言われており、コレクション全体の70%を占めています。
移転開館を記念して開催された特別コレクション展「日常とつながる美術の扉~わたしたちと美術の出会い~」では、コレクションを代表する、ジョアン・ミロの「最後の版画」シリーズや橋口五葉の《化粧の女》、浜田知明の《初年兵哀歌(歩哨)》など、多くの版画作品が披露されました。
橋口五葉《化粧の女》1918 木版画
浜田知明《初年兵哀歌(歩哨 )》1954 銅版画
実は、旧美術館には常設展示室がなかったため、年に2回開催されていた特別コレクション展でしか、これらの作品を見ることができませんでした。今回、展示室の規模が約2倍になったため、より多くの作品を鑑賞する機会が増えます。これは美術館を繰り返し訪ねて鑑賞する楽しみの一つとなるのではないでしょうか!
鑑賞ポイント その2 可愛くそして力強く招いて |
美術館の入り口からまっすぐ進むと、大きな大きな陶芸の作品が来館者を迎えてくれます。この作品のタイトルは《阿吽(あうん)》。地元東広島在住の陶芸家、木村芳郎氏が滋賀県立陶芸の森アーティスト・イン・レジデンスで制作した作品です。どことなく滑稽で思わず近づいて見入ってしまうくらい可愛らしい、でも迫力のある作品です。阿吽の「阿」は仏教の世界では全ての始まり、そして「吽」は全ての終わりを表します。つまり物事の全てを意味しているのです。
木村芳郎《阿吽》2008 陶土・施釉陶
神社や寺院の入り口や本殿の正面によく見られる一対の狛犬や獅子は、魔除けの効果があるとも言われていますが、この作品にもどこかそんな印象を感じます。美術館に入って最初と見終わって帰る際、地元作家の作品《阿吽》を是非見てみてください!何か良いことが訪れるのでは?と思わせてくれます。
鑑賞ポイント その3 礼拝堂を感じる |
「東広島市立美術館」の建築デザインは、開放的な大きな窓を配した外観はもちろんのこと、心地よく作品を鑑賞することができる内空間にも特徴が見られます。
外から見た東広島市立美術館 エントランス上部の窓
外観と内観のバランスが取れた美しいデザインですが、私が最も惹きつけられたのは、作品を鑑賞し終わって上階から見渡す入口ホール上部の窓から差し込む光の内空間です。
東広島市立美術館 内観
それはまるで、モダニズム建築の巨匠・近代建築の三大巨匠と称されるスイス生まれのフランス人建築家ル・コルビュジエの作品、フランスの「ロンシャンの礼拝堂」を連想させるほどの神聖な空気を醸し出しています。そしてその光の空間は、美術館の4つの基本理念である「鑑賞(優れた文化や芸術にふれる)」「育成(地域の文化や人をはぐくむ)」「創造(個性豊かな文化を創造し発信する)」「交流(人が集い、交わり、広がる)」を静かに優しく伝えているようにも感じます。
東広島市(西条)は、広島大学の移転を機に、学園都市化が急速に進んでいった地域ですが、その一方で、キャンパスの周辺は、山林や田畑が至る所に残っている、近代と現代、そして未来が混在している地域でもあります。地元作家が作り出して来た伝統と、学生たちを中心とした若者が作りだす新鮮な未来への可能性。それらの視点から作品を見れば、面白い時の流れを感じることが出来るでしょう。是非この機会に移転オープンした新美術館に出かけてみてはいかがでしょうか?今後、楽しみな企画展が目白押しです!
・参考資料 東広島市立美術館ホームページ
東広島市立美術館 〒739-0015 広島県東広島市西条栄町9−1 https://hhmoa.jp/ |