わかるともっとおもしろい!美術のミカタ「泉美術館」「佐藤忠良」「村上華岳」

2021.05.31

みたことある!知っている!
…つもりになっている有名絵画。
視点を変えると知らなかった
面白さがまだまだみつかる!
美術家で広島女学院大学教授の三桝先生が
有名美術作品の新たなミカタをご紹介します。

今回は広島市の西エリア、商工センターにある
知る人ぞ知る、私設美術館「泉美術館」
彫刻家の「佐藤忠良」氏や日本画家「村上華岳」氏の作品たち
そして雪見障子からの借景にも注目します!

泉美術館は株式会社イズミの創業者である山西義政氏によって設立された、私設の小さな美術館です。広島市の西エリア、商工センターの株式会社イズミが所有するビルの中にあり、間もなく25周年の節目を迎えようとしています。

山西義政、千榮子夫妻の独自の審美眼で収集された、近代の洋画や日本画、彫刻、中国染付磁器などが所蔵され、館内に「人にやさしい、人を思いやる芸術空間」を作り出すことで、訪れる子どもたちをはじめとした多くの人々の心の糧となり、芸術を愛好する人たち同士の出会いや交流の場となっています。

泉美術館外観

鑑賞ポイント その1

佐藤忠良との
出会いの物語!

泉美術館のコレクションの中で最も目を惹くのが、彫刻家佐藤忠良(1912-2011)の作品です。入り口を飾る佐藤氏揮毫(きごう)の銘板、絵本「大きなかぶ」の挿絵のレリーフと鉛筆デッサン。そして「帽子・冬」など、彼の代表作品でもある女性をモチーフとした具象彫刻などが鑑賞できます。これらの作品の充実度を通して、山西氏と佐藤氏との出会い、始まった友好的な交流の様子が、まるで物語を見ているかのように伝わってきます。

最初にコレクションされた佐藤忠良作品は「フードの竜(1980作)」です。本作品の初々しい子どもの表情から感じられるのは、溢れんばかりの喜びと未来に対する希望です。きっと山西氏が本作品と出会った瞬間もこのような感情を抱いたのではないでしょうか。

佐藤忠良ポートレイト(部分)撮影斎藤康一氏 「フードの竜」(部分)右側

泉美術館における佐藤忠良の企画展はこれまで5回※ほど開催されていて、所蔵作家としては最も多くの回数を記録しています。
※2002年・2004年・2006年・2011年・2017年

鑑賞ポイント その2

圧巻の和空間。
村上華岳の掛け軸3作!

館内には近代日本画の掛け軸や屏風、中国工芸作品の名品が陳列されている一室があり、近代日本画家を代表する京都画壇の村上華岳(1888-1939)の掛軸作品が3点ほど展示されています。

その3点の掛軸はいずれも「菩薩」です。村上氏が晩年に多数描いたもので、女性の妖艶な官能美と悟りの精神性が見事にバランス良く表現されており、見る人を不思議な神々しい世界に導いてくれます。

3点の掛軸の展示は、展示方法も含めて、その世界観を象徴しています。金色を基調とした色彩が村上華岳作品の魅力を一層深め、広げています。泉美術館を設えた建築家、田中清氏の和洋折衷の設計が、それぞれの作品たちの魅力を見事に引き立てています。圧巻の和空間をぜひご覧ください!

村上華岳「菩薩之図」1928年頃

鑑賞ポイント その3

雪見障子から見える
絶景の借景!

エレベーターから降り、美術館に入って受付を済ませ、作品展示の部屋へと進んで行くと、目の前に入ってくるのは、雪見障子に切り取られた美しい借景です。

ここには、日本庭園を備えたカフェが併設され、美術館がビルの一室にあることを忘れさせる、まさに「和み」の風景を堪能することができます。

鑑賞後の余韻にゆっくり浸ることが出来るだけでなく、鑑賞前の待ち合わせの場所にも利用できる、素敵な時間を過ごせる空間でもあるのです。

泉美術館にはまだまだ紹介できていない所蔵作品がたくさんあります。例えば、梅原龍三郎や安井曾太郎、藤田嗣治などの洋画、横山大観や前田青邨、東山魁夷などの日本画、それから中国の壺・皿などの古美術等のコレクションです。またの機会にしっかり紹介できたらと思います。

創設者である山西義政・千榮子夫妻がひとつひとつの出会いを重ねるうちに形となった泉美術館は、「美」に人々の思いを託す心が始まりとなって建設されました。その流れは、現在も山西道子美術館理事長によって、大切に受け継がれ、忘れられつつある日本の美の素晴らしさのみならず、現代美術の未来に向けた新しい希望にも触れることができます。

恐れ多いことですが、いつか私、三桝の作品も展示させて頂けたらと夢を描いてしまうほど、素敵な魅力ある小さな美術館。オススメの場所です。

・本原稿は泉美術館主任学芸員 靍田 茜さんによるギャラリートークを基に作成
・参考文献 山西道子「美術館について」泉美術館ホームページより

泉美術館
〒733-0833 広島市西区商工センター2-3-1 エクセル5階
http://www.izumi-museum.jp/

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