わかるともっとおもしろい!美術のミカタ「日照雨」「秋山(志賀高原)」「西王母図」「紅葉狩図」

2020.11.30

みたことある!知っている!
…つもりになっている有名絵画。
視点を変えると知らなかった
面白さがまだまだみつかる!
美術家で広島女学院大学教授の三桝先生が
有名美術作品の新たなミカタをご紹介します。

今回は、3つの日本遺産を一度に見ることができる「尾道市立美術館」。
そのコレクションの中から小林和作の「日照雨」「秋山(志賀高原)」、平田玉蘊の「西王母図」「紅葉狩図」に注目します。

「尾道市立美術館」は1980年(昭和55年)に市民の草の根運動からスタートして開館した美術館。その23年後の2003年(平成15年)には安藤忠雄の設計による改修工事を経てリニューアルしました。

その佇まいは、開館時の外観を残しながらも現代的なデザインを取り込み、新たなコンセプトである「本物の芸術と文化を提供し、新たな感動の中で歴史を見据えながら、未来へと羽ばたく豊かな夢と明るい希望を世界へ発信して、地域社会に貢献する本格派の美術館」が見事に表現されており、ここには、小林和作を始め尾道を舞台に活躍した作家の油彩画・日本画・水彩画・写真・彫刻・工芸・書など約1,500点の作品が収蔵されています。

尾道市立美術館

鑑賞ポイント その1

3つの“日本遺産”が
一堂に眺望できる
贅沢なスポットが!
美術館内に!アル!

日本遺産は、東京2020オリンピック開催に向けて文化庁が認定したもので、日本各地の歴史的魅力や特色が文化・伝統を語るストーリーとして表されています。現在日本遺産に認定されている104件の内、3件が尾道市立美術館内にある1つのスポットで鑑賞できます。

日本遺産についはこちら

尾道水道

尾道市立美術館内の1つのスポットで鑑賞できる3つの日本遺産はこちら。

  • 瀬戸内海随一の良港として繁栄した「海の川」とも言われる
    『尾道水道』
  • 動く総合商社とし巨万の富を生み、各地に繁栄をもたらした
    『北前船寄港地』
  • 日本最大の海賊「村上水軍」の本拠地である
    『芸予諸島』

さて、鑑賞スポットは館内のどこにあるのでしょうか?探してみるのも楽しいですよ!

「日照雨」(1934年)

「秋山(志賀高原)」(1954年)

鑑賞ポイント その2

なんといっても
「小林和作」でしょう!

先述の小林和作(こばやしわさく)は、昭和9年に尾道に移住し、市民と身近に接しながら風光明媚な尾道の風景を愛し、終生描き続けた近世日本洋画家を代表する作家です。和作は尾道の文化振興にも深く関わり、名誉市民にも選ばれていて、「わさくさん」と呼ばれるなど今でも多くの人に慕われています。

中でも「日照雨」(1934年)は尾道に移住した翌年に描かれた作品で、その画風はゴッホを連想させるような力強いタッチ。尾道の対岸の向島の突然の雨の風景を描いています。

和作の作品をご覧になったあと、彼の愛し続けた尾道の風景をもう一度見つめてみるのも鑑賞する楽しさのポイントになるのでは?!

また、「秋山(志賀高原)」は長野県の志賀高原の紅葉を見事に描き出した作品です。小林和作の最も油の乗りきった制作旺盛の時期の筆致がまるでゴッホの筆致と重なるようにも感じる重厚感があります。それぞれの時代の筆致の変化を辿るのも鑑賞のポイントにもなるでしょう。

「西王母図」

「紅葉狩図」

鑑賞ポイント その3

一生尾道で活躍した女流画家
「ぎょくおんさん」ここに在り!

尾道の人たちに今でも「ぎょくおんさん」と親しみを持って呼ばれている平田玉蘊は、江戸時代後期1787年に尾道に生まれ、一生尾道で生きた女流画家です。

京都で絵画を学び、伊藤若冲などの作品を手本としながら花鳥画を中心に人物画・風景画など多くの優れた作品を残しています。

尾道市立美術館には「西王母図」「紅葉狩図」などの掛け軸の作品が多く所蔵されていますが、尾道市内の寺社などには屏風や襖絵の大作も残されていて、残されたコレクションを探しながら尾道市内の寺社や古い町並みを探索するのも楽しみな鑑賞のポイントになるのでは?!また頼山陽※との恋愛も語り継がれていて、近年再評価されつつある楽しみな作家です。

※頼山陽(らいさんよう)…江戸時代後期の歴史・文学・美術などのさまざまな分野で活躍した日本を代表する漢学者。没後に出版された『日本外史』がベストセラーとなり、幕末から明治初期の人々に大きな影響を与えました。広島市中区袋町に旧居があるなど、広島にゆかりの深い人物。

「わさくさん」や「ぎょくおんさん」と、今でも尾道の人は懐かしさと親しみと誇りをもって呼んでいます。以前は尾道の地で成功すると、この二人の絵を持つことがその豊かさのシンボルとなっていたようです。それはただ単に芸術作品を所有するというものではなく、郷土に貢献してきた作家を自分と重ね、共に歩んで行きたいという郷土愛と繋がるものになったのではないでしょうか。

さて、あなたも尾道市立美術館の作品を通して、尾道の歴史の新たな感動に出会ってみませんか!

尾道市立美術館
722-0032 広島県尾道市西土堂町17-19(千光寺公園内)
https://www.onomichi-museum.jp/

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