わかるともっとおもしろい!美術のミカタ「たそがれ近く」「立夏」「白嶂」「紅嶺」

2020.08.31

みたことある!知っている!
…つもりになっている有名絵画。
視点を変えると知らなかった
面白さがまだまだみつかる!
美術家で広島女学院大学教授の三桝先生が
有名美術作品の新たなミカタをご紹介します。

今回は、奥田元宋・小由女美術館のコレクションの中から

「たそがれ近く」、「立夏」、「白嶂」、「紅嶺」を巡り
多くの作品のモチーフとなった 「月」に注目します。

「奥田元宋・小由女美術館」は戦後を代表する日本画家奥田元宋と、その妻で人形作家の奥田小由女の作品を常設展示する美術館です。2006年、広島県北部のなだらかな山々に囲まれた三次市にオープンしました。奥田元宋の初期から最晩年に至る傑作やスケッチなど、およそ200点を所蔵しています。今回は数ある奥田元宋作品の中から、ポイントとなる作品をみて行きましょう。

「たそがれ近く」(1951年)

「立夏」(1955年)

鑑賞ポイント その1

「元宋の赤」は圧巻!でも
「緑」にも惹きつけられる

皆さんも耳にしたことがあるかもしれません。奥田元宋の作品はしばしば「元宋の赤」と評されます。彼の代表的な作品に見られる、赤を用いた紅葉と燃えたぎる命の表現はまさに圧巻です。その一方、私は「緑」にも惹かれるのです。

元宋の作品にはほとんど人物は登場しませんが、その分、作品の中には自然がしっかり描きこまれています。緑に注目することで、元宋の静かで素直な自然を見つめる姿勢を感じることができると思います。

とくにこちらの2つの作品、「たそがれ近く」は、夕暮れの霧がかった静かな浅黄緑が、「立夏」は5月の風薫るさわかやな深緑がそれぞれ情緒豊かな感性で描かれていて、注目すべき「緑」の作品です。

「白嶂」(1987年)

「紅嶺」(1987年)

鑑賞ポイント その2

しっかりと近づいて元宋の
「筆跡」を見てみよう

館内のもっとも重要な空間に2点で対となる作品、「白嶂」と「紅嶺」が展示されています。大きな展示空間に展示されているのは、横幅約6m の大作2点のみ。元宋の魅力が凝縮された、実に贅沢な空間と言えるでしょう。

少し離れて作品と空間全体を鑑賞したら、今度は逆にしっかりと近づいて白や赤の筆跡を見てみると、面白いものが見えてきます。

離れてみると静かに見えた 2 つの作品は、近づいていくにつれ、筆跡の激しい動きに気づきます。自然が見せてくれている「厳しさ」や「怖さ」、「荒々しさ」がその筆跡から感じ取れるはずです。

元宋は生前、「目で見えないのなら、こころの目で描けば良い」と語っています。なるほど、この2枚の作品は実際に目で見えたものだけでない、心象的な「命の躍動」も描かれているのかもしれません。

鑑賞ポイント その3

元宋の描いた「月」
注目してみよう

数々の元宋作品に登場する「月」。絵の中では決して強く主張せずそっと静かに佇んでいます。元宋自身なのでしょうか。元宋の制作を側でずっと支え続けてきた妻の面影なのでしょうか。その「月」に注目してそれぞれの作品を楽しむのもオススメです。

実はこの美術館も「月」をモチーフに設計されています。満月の夜、まるで元宋の描いた風景に抱かれたかのような見事な借景が館内ロビーからご覧になれます。

奥田元宋・小由女美術館ロビーから

そして何と素敵なことに、満月の夜は 21 時まで開館しており、その荘厳な自然の風景を味わうことが出来るのです。茶室「待月庵」でお点前頂くと、至福のひと時は一層深まることでしょう。

三次の豊かな自然に抱かれた「奥田元宋・小由女美術館」で「素直な目で自然を見つめる」ひと時を、ぜひ体感してみて下さい。

奥田元宋・小由女美術館
〒728-0023 広島県三次市東酒屋町10453番地6
http://www.genso-sayume.jp/

新型コロナウイルス感染症拡大防止対策として、美術館開館日のほか、満月日の開館時間延長や茶室での呈茶イベントについては変更となる場合があります。最新の情報はホームページ等にてご確認ください。

↑